コットンって、どこか温かみがあって、優しい響きがありませんか?
ですが実は、世界の農業界では、コットンと聞くと「環境汚染・農薬中毒・貧困層搾取」を連想すると言われるほど、その生産現場は劣悪です。

ここではコットンの生産現場、オーガニックコットンの可能性、そして近年ドイツで広がってきたフェアファッションについてご説明したいと思います。

Contents

コットン製品からは見えない裏の世界

pixabay

 

Pesticide Action Network UKの報告によると、コットン畑は全世界の耕作面積のたった2.5%であるにも関わらず、全世界の殺虫剤の実に16%がコットン農園に集中して使用されていると言います(注1)。

また、農薬の量は農作物の中でも最大と言われており、1枚140gのコットンTシャツに対して大量の農薬が使用されており、化学肥料も含めて51gの農薬が使用されているというデータもあります(注2)。 コットン製の衣類や日用品の85%から残留農薬が検出されたという研究結果まであるほどです(注3)。

コットン栽培の現場はさらに過酷です。

ロイター綿栽培農家画像Reuters

 

世界の綿花生産の99%は、アジア、アフリカ、南アメリカなどの貧しい途上国に集中しています。通常、コットンは「単作(同じ農地に一種類の作物だけを栽培すること)」という栽培スタイルをとります。単作では生産性を上げるために、時間とともに欠乏する土壌養分を補い、大量の化学肥料を投入する必要があります。その結果、余計に土壌の劣化が進み、収穫量が減ることになります。そして、さらに多くの肥料や農薬を投与しなければならなくなるという悪循環に陥るのです。

また途上国では、他国ではすでに使用禁止されている毒性の高い農薬がいまだに使用されているという事実もあります。「貧しくて防護服が買えない」「勉学の機会がない」といった理由から農薬の取り扱い方法が正しく理解されず、毎年7,700万人の農民が中毒死や深刻な健康被害に苦しんでいるという報告すらあるのです(注4)。

生産者を苦しめているのは健康被害だけではありません。農薬、化学肥料、種の価格の高騰が続く一方で、コットンの売値は年々下がる傾向にあります。途上国の多くの綿花農家は借金づけになっているのです。

西インドのコットンベルトと呼ばれる地帯では、年間数千人の綿花農家が借金を苦に死を選び、実に8時間にひとりが自殺に至っている現状があります(注5)。

 

借金を抱えたインド綿花農家のYogita Kanhaiyaさん借金を抱えたインド綿花農家のYogita Kanhaiyaさん(当時25歳)。0歳と2歳の息子を残して夫は自殺。
CNN Tragedy in India’s cotton fields as farmers choose death over debt

 

さらに、綿花栽培では児童労働問題が深刻です。国際労働機関(ILO)は、世界中に1億6,800万人の児童労働者(5歳〜14歳)が存在し、その約60%である約1億人が農業に従事していると推測しています。

児童労働を受け入れるようなところでは、子どもたちの安全面や健康面を考慮することは稀有です。毒性の高い化学物質や危険な道具・器具を手にしたり、炎天下での重労働で健康被害に苦しんだりする子どもたちが後を絶ちません。さらに、教育の機会も奪われるという人権侵害がまかり通っているのです。

 

児童労働の現場子どもたちの手Green America

 

コットン製品は、「種苗サプライヤー(種苗業界)→生産(綿花栽培)→製造(服飾業界)」といった過程を経て生み出されます。各工程には、特別なスキルがなくてもできる仕事も多く、貧しい女性や子どもたちが不当に低い賃金で雇われています。

世界の衣類供給は社会的弱者といわれる人々によって支えられているのです。

オーガニックコットンがもたらす恵み

インドのコットン農家画像Armedangels

 

このような現状にあって、オーガニックコットン(有機綿花)を栽培することは、それだけで有機綿花農家やその周辺、自然環境にまで多くの恵みをもたらします。

  1. 生産者が経済的に自立できる高額な遺伝子組換え種子、化学肥料、農薬を買う必要がないため、借金地獄に陥らずにすみます。
  2. 生産者とその周辺の人たちが健康被害から逃れられる危険な農薬は使わないため、生産者やその家族、周辺住民などの健康が守られます。
  3. 生産者が収入の安定を得られる有機栽培では「輪作、混作、二毛作」などが奨励されるため、綿花以外の多様な農作物を育てることに繋がります。結果として、年間を通じた農作物の収穫高が上がり、生産者が家族を養うために必要な収入源が安定します。
  4. 水資源を守れるコットンは多くの水を必要とする農作物のひとつ。有機綿花栽培では、雨水の利用が推奨されるため、水道水の使用量が10分の1程ですみます。また、毒性の強い農薬を使わないため、飲み水の水質を守ることができます。
  5. 環境保護に繋がる慣行農法のように生産時に肥料を散布したり、輸送時に化石燃料を燃やしたりすることがないため、窒素酸化物や二酸化炭素の排出量を抑えることができます。また、二酸化炭素を大気中から隔離して土壌中の栄養物にするため、気候変動を和らげることにもなります。

 

フェアファッションの取り組み

pixabay

 

多くのメリットがあるにも関わらず、世界に存在するコットンの99%はオーガニックではなく非オーガニックであると言われています。そして、これを大量に低価格で調達しているのが大手アパレル産業、俗にいう「ファストファッション」ブランドです。世界的ファストファッションブランドがいくつかありますが、日本でもよく知られていますよね。

「ファストファッション(Fast Fashion)」とは、低コストや効率化を限りなく追求したファッションのこと。ファストフードのように格安な衣類を大量に生産し、消費者に短期間で何度も消費してもらうのがその特徴です。意識の高い欧米諸国では、「消費を高める一方で、社会問題や環境問題の温床となっている」と近年非難されるようになりました。

これら巨大ブランドに対してアンチテーゼを提示したのが、欧米を中心に80年代後半より少しずつ勢いを増してきたフェアファッションブランドです。フェアファッションブランドとは、ファッションを通じて環境問題や社会問題に取り組むファッションブランドのことを言い、エコファッション、サステイナブルファッション、エシカルファッションなどとも呼ばれています。その取り組みには、以下のようなものがあります。

  • 製造過程や流通などのサプライチェーンで起きる環境汚染の軽減
  • オーガニック素材・自然界で分解可能なエコ素材・廃棄素材等の積極採用
  • 従業員が安心して働ける安全な労働環境
  • 公正な賃金の支払いや児童労働の撤廃などの人権配慮
  • 動物福祉に対して配慮した事業

フェアファッションブランドのパイオニアとして有名なのが、アメリカのアウトドアウェアブランドPatagonia(パタゴニア)。コットン栽培から生じる環境負荷や健康被害に危機感を覚え、90年代初旬よりオーガニックコットンに切り替え、以来一貫してファッション業界のあり方に一石を投じてきました。

ドイツ生まれのフェアファッションブランド

オーガニック大国のドイツでも、近年では多くのフェアファッションブランドを見かけるようになりました。ここではドイツ生まれのフェアファッションブランドを3つご紹介したいと思います。

1. Armedangels

フェアファッションArmedangelsArmedangels

 

ファッション業界のことを「私たちが働くのは、世の中で2番目 に汚れた業界(“We work in the second dirtiest industry in the world.”)」と皮肉たっぷりのキャッチコピーで揶揄するのは、ドイツ老舗フェアファッションブランドのArmedangels。

「2007年にビジネスを始めた当時は、6種類のTシャツを売っていただけの小さな事業だったんです。あれから10年間、完全オーガニックでエコな洋服だけを製造し、欧州を中心に世界18カ国で340億枚のフェアファッションブランド品を販売してきました。僕たちはファッション業界は変われるんだってことを世界に提示してきたと思っています」というのは、ArmedangelsのCEO Höfeler氏。

 

ArmedangelsのCEO Höfeler氏ArmedangelsのCEO Höfeler氏, Armedangels

 

「創設からの10年間で隠さなければならないものなど僕たちには何ひとつない(“10 Years Nothing to Hide“)」と、Höfeler氏は言い切ります。

「この10年で僕たちは140億キロのオーガニックコットンを調達してきた。つまりは、2,700kgの農薬と350,000kgの化学肥料を使用せずにすみ、またオーガニックコットン栽培を促進することで2.8兆リットルの水を節約できたことになる。さらに、フェアな賃金を有機農家に支払い、生産者の生活の質の向上に努めてきた」とも語っています。

Armedangels website:https://www.armedangels.de

2. j.jackman

フェアファッションブランドj.jackmanj.jackman

 

ドイツ、ベルリン発のフェアファッションブランド。創設者のJovan氏は、生まれも育ちもNY。MBAを取得後、米系大手コンサルティング会社で誰もが羨むような高サラリーを得ていたが、昇進を言い渡された直後に辞職。

「ここでどんなに努力しても、世の中をよくすることは不可能だと思った」と言います。その後、大好きなファッションで起業することを決意。社会的不平等の是正に貢献できるフェアファッションブランドj.jackmanをベルリンで立上げました。

「私たちが着ている洋服の80%は、途上国の貧しくて若い女性たちによって作られているの。彼女たちは最低限必要な生活費の半分しか稼げていないという状態。フェアな素材を調達して製品を作ることで、少しでもよりよい世界にしていけるのではないかと思った」

代表のJovanはスカイプトークでそう語ってくれました。

 

j.jackmanプロフィール画像j.jackman

 

笑顔で力強く話す彼女のブランドをもっと応援したくなりました。j.jackmanのポリシーは本当に素敵で

  • 作っている人が通常の2倍以上の賃金をもらっていること
  • 素材はオーガニックまたはエコであることにこだわり、できる限り近隣諸国から調達すること
  • 廃棄ゼロにすることを目指し、それが可能な商品生産工程を少量ロットで実現していること。またそのために注文が入ってから生産していること(業界では製造過程で10%-30%もの素材が廃棄されている)
  • 数回着用しただけで捨てられるのではなく、10年は大事に着てもらえる商品を作ること
  • 着ている人が美しくなりハッピーになれること

今まで数十以上のフェアファッションブランドを追いかけてきましたが、ここまで洗練されたデザインはなかなかありません。オーガニックでエコでフェアなものが大好きなエレガント女子に心からお勧めします。

j.jackman website:https://www.jjackman.com/

3. Anekdot

フェアファッション下着ブランドAnekdotAnekdot

 

ドイツ、ベルリン発の下着専門フェアファッションブランド。廃棄素材を使った生産にその特徴があります。

「Anekdotは、ファッション業界の未来や人々の意識を変えるという目的のもと、下着をこの世に送り出してきました。Anekdotでは、デザインが先に生まれることはなく、廃棄されてしまう素材が調達できた時点で、そこに再び息を吹き込むべくデザインを生み出しています」というのは、CEOで創設者のSofie。

 

Anekdot代表Sofieさん画像Anekdot

 

彼女はスウェーデン出身のデザイナーですが、イタリアで学び、ロンドンのファッション業界で実績を積み、ベルリンで独立した国際人でもあります。
フランス、イタリア、スリランカにある高級ブランドの工場で廃棄される運命にあるシルクなどの高品質素材やオーガニック素材をかき集め、一つひとつ丁寧に手作業で少量生産し、関わる人たちにフェアな賃金を支払っています。

Anekdot website: https://anekdotboutique.com/

 

いずれのブランドも日本への配送は今のところ行っていないということでしたが、条件など揃えばできるだけ要望にはお応えしたいとのことでした。

フェアファッションの先にあるもの

下着デザイン画Anekdot

 

フェアファッションを応援することで、途上国で今も存在している「誰かの苦しみ」を軽減し、世界の仕組み自体を大きく変えていくことができます。私はその可能性を信じて、これからもできるだけフェアファッションブランドを応援していきたいと思っています。

フェアファッションブランドには、比較的価格が高めのものが多い一方で、一つひとつ手作業で作られているものが多く、人の温もりも感じられます。だからこそ「10年は大事に着よう!」と思えるのです。

一消費者ができることは本当に微々たること。ですが、ひとりでも多くの人が日々の買い物の中でほんの少し意識して実践に移していくことで、世の中の流れは確実に変わります。

平和主義を唱えたマハトマ・ガンジーの言葉に 「Be the change you want to see in the world.(見たいと思う世界の変化にあなた自身がなりなさい)」というのがあります。

もし、世界を変えたいと思うのなら、まずは自分自身が変わること。これが確実に大きな第一歩になっていくと信じています。

また、一昔前ならば、オーガニックでエコでエスカルなファッションといえば、エスニック風だったりナチュラルな色合いしかバラエティーがなかったりと、一部の人にしか受け入れられないようなデザインのものがほとんどでした。

今では、様々なスタイルのフェアファッションブランドが世界中にあり、日本でもエシカルファッションという名でいくつものブランドが生まれています。

あなたのテイストにぴったりなフェアファッションブランドがきっとあるはずです。ぜひ一度、人と地球の幸せを紡ぐファッションを手に取ってみてくださいね。

 

 

参考資料:
(注1)"Pesticide Concerns in Cotton".Pesticide Action Network UK. http://www.pan-uk.org/cotton/,
(注2)Armedangelsプレスレポート2017によるTextile Exchange. https://www.armedangels.de/en,
(注3)アルゼンチン、ラ・プラタ大学教授Damian Marinoらの調査による. http://www.telam.com.ar/notas/201510/124194-glifosato-algodon.html,
(注4)Have you cottoned on yet. http://www.cottonedon.org/Portals/1/Briefing.pdf,
(注5)P. B. Behere and A. P. Behere. ”Farmers’ suicide in Vidarbha region of Maharashtra state: A myth or reality?”. Indian J Psychiatry, 2008

 

日本では手に入らないオーガニック情報

この記事が気に入ったら
IOBをフォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事