中国で昨年12月末に新型ウイルスが最初に発生して以来、2020年8月13日現在、世界ではCOVID-19(コロナウイルス)による感染症が猛威を振るい、未だに混乱に陥っている。WHOの集計によると、196の国と地域で世界の感染者数は2028万人を突破、感染死亡者数も74万人を超えた。この文章を書き始めた3月当初、死者数は2万2000人と綴っていた。日に日に増加するこの数は、われわれに何を教えているのであろうか。世界銀行の発表によると、2020年の経済成長率は5.2%減と見込まれ、1870年以降の経済の落ち込みは、世界恐慌、第二次世界大戦、第一次世界大戦につぐ4番目の規模になるという。経済至上主義で突っ走ってきた世界のあり方に、この感染症は「経済成長と人間・自然のあり方」に警告を鳴らしている気がしてならない。
「気候変動・地球温暖化が感染症を引き起こす」と言い始めると、「すぐになんでも温暖化を原因にする」と温暖化反対論を唱える意見もありそうだが、「地球温暖化と感染症」の関係は今回のコロナウィルスに始まったことではなく、2001年のIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル Intergovernmental Panel on Climate Change)の「第3次評価報告書」ではすでに指摘されていたことである。
現在、メディアはどうしても感染の状況や数字・経済への影響に注目せずにはいられない。今、マスメディアは表面的な現状を報道するしかない。しかし、時間の経過とともに、根本的な要因にフォーカスする必要があるのではないだろうか。
今回のコロナウィルスは、まだ専門家ですら全容と実態が把握できていない。現状でコロナウィルスと温暖化の直接的関連性を断言することは避ける。しかし、感染症が地球温暖化の影響で増加し、それが蔓延していくことは以前から予想されてきた。地球温暖化が今どうなっているのか、そしてこれがどう感染症と関係していくと予想され、その予兆が出始めているのかをここでレポートしたいと思う。この文を記載している数週間前、日本では九州を中心とした豪雨に見舞われた。この異常気象がどのような原因で起こっているのか、それがどうわれわれの生活を脅かしているのか、感染症と関わりがあるのかも同時に記そうと思う。この時期だからこそ、目をそらさずに知ってほしい。
Contents
地球温暖化とは
前回、「地球温暖化・異常気象で見えてきた資本主義の限界と新しい形」で解説をさせていただいたように、われわれの星、地球の温度システムについて簡単に説明する。地球に降り注いだ太陽の熱が地球の表面を暖め、その暖められた地表から再度熱が放射される。地球を覆う大気には様々な種類のガスが含まれているが、その中の温室効果ガスがこの地表からの放射熱を吸収し、再び地表に戻す。この再放射があることにより、地球の温度は平均約15℃に保たれ、人間をはじめとする生物が生命維持に適したものとなる。
しかし、ここで問題となるのが温室効果ガスの量である。1750年頃から始まった産業革命以降、人間は石油・石炭などの化石燃料を燃やしてエネルギーを作ってきた。燃やすことで大量の温室効果ガスを出すようになり、地球全体のバランスを崩しながら、経済発展を遂げてきたと言っても過言ではない。
温暖化の“多重悪循環”
大気の悪循環
大型台風・豪雨が頻繁に起きているのは・・・
近年、大型台風や豪雨による山崩れや田畑・家屋・街・人の生活へ被害を及ぼしている。しかし、その根本原因をマスメディアなどのニュースでは目にすることはほとんどない。ここではそれらの原因を明らかにしてゆく。
地球の温度が上昇すると暖かい空気は多くの水分を含むこととなる。実際に1度上昇するたびに大気中の水蒸気量は7%増加する。気温が上昇するほど、大気中に水蒸気量が増加し、雨へと変化するときに激しい豪雨となる。
参照)温暖化の“悪循環からの脱出” 大学院大学至善館幸せ経済社会研究所 枝廣淳子より 筆者(明石純子)作成
森林の悪循環
山火事が大規模・頻繁に起きているのは
地球の温度上昇により、内陸部は空気が乾燥する。それにより落雷が発生しやすくなる。温度が1℃上昇すると落雷数が10〜12%増える。また、空気の乾燥により樹木の水分も減り、森林そのものが乾燥している状態になる。健康な状態の水分を保った森林であれば、落雷があっても山火事に発展することはない。しかし、乾燥した森林は落雷などによる着火が原因で、大規模な山火事を引き起こす。
落雷だけでなく、途上国で多く見られる焼畑農業なども山火事の原因に挙げられる。本来、焼畑農法は多種多様な有機物を含んだジャングルに適した農法であった。焼畑農法とは、「森林に焼畑をして数年収穫をしたあと、地力が無くなったところで他の土地に移り、また焼畑をする。土地を移すことにより、もとの土地は休耕期間に入る。多種多様な生物の宝庫であったジャングルは、様々な種子や動物の糞、豊富な有機物・微生物などにより、休耕期間に入った土地は地力を数年で回復し、またジャングルになる」といった自然再生エコシステムを使った方法である。人口の少なかった時代には、休耕期間を置くことによりジャングルの地力は回復でき、優れた農法と言えた。しかし、近年、途上国の人口増加は目覚ましい。それにより休耕期間が短くなり、地力の回復を待たずして次の焼畑農業が始まってしまう。それが健康でない森林を作り上げる要因ともなっている。水分の少ない健康ではない森林に着火された時、大規模な山火事を引き起こしやすい。
原因が自然発生の落雷であろうと人為的要因であろうと、一度着火してしまったら乾燥した水分の少ない森林の火災は大規模になってしまう。山火事から排出される大量のCO²は、温室効果ガスを増加させる。また、「地球の肺」の役割をするアマゾンのジャングルや各地の森林などが火災により減少するということは、樹木が温室効果ガスのCO²を吸収し、酸素に変える量を減らすことになる。まさに「悪循環」が起こっている。
参照)温暖化の“悪循環からの脱出” 大学院大学至善館幸せ経済社会研究所 枝廣淳子より 筆者(明石純子)作成
北極・南極の悪循環
永久凍土の融解は温暖化を加速
地球の温度上昇により、南極・北極の氷河が溶け始めている。
出典)Climate Reanalyzer Climate Chang Institute, University of Main, USA.
上記の地球の温度を表す地図は、太陽が全く昇ることのない北極で摂氏0℃を超え、2℃以上になっていることを表している。近年、北極の温度は異常気象により20℃〜30℃以上高く記録される。それにより海氷が十分に大きくならない。それとともに、もともと存在した氷土が溶け出している。その現象は南極にも現れている。
温暖化によって北極や南極にある永久凍土(永久に凍っている地面)が溶け出し始めると、その中にあるメタンガス(温室効果ガス)が地上に放出される。メタンガスはCO²の21倍もの温室効果を有する強烈な特徴がある。メタンガスが大量に放出されることによりますます温暖化が進んでしまうのだ。
温暖化の悪循環
参照)温暖化の“悪循環からの脱出 大学院大学至善館幸せ経済社会研究所 枝廣淳子より 筆者(明石純子)作成
上記の様々な現象は、温暖化が原因により引き起こされていることがわかる。このまま温暖化が加速するとこの悪循環に拍車をかけることになる。
温暖化の影響
温暖化がもたらす様々な影響を見ていくことにする。
海面上昇
IPCCの「第5次評価報告書」によると、1993年〜2010年の海面上昇は年間3.2mmであったと結論づけた。
これにより様々な影響が出るとされている。年々、上昇速度は加速している。そのことにより人は内陸部に移動を余儀なくされる。
陸の生態系の変化
温暖化により、従来生息できた場所では生息不可能となる。温度の変化や環境変化に耐えられない種は絶滅を迎える。強い種は生き残り、弱い種は死に絶えることになる。
【昆虫】
世界の40%の昆虫が今後数十年のうちに絶滅する恐れがある、ということが判明している。昆虫減少の要因としては、気候変動とともに集約的農業や都市化に伴う生息地の消失、農薬や化学肥料による汚染、病原体や外来種などの生物的要因も挙げられる(「バイオロジカル・コンサベーション」2019年4月号より)。
また、生命を維持するために生息地の移動が種によって起こっている。
写真) 人類のせいで「動植物100万種が絶滅危機」=国連主催会合より BBC ニュースジャパンより
【動物】
国際自然保護連合(IUCN)の調査では絶滅寸前にある哺乳類は、亜種を含め200種類以上にのぼることがわかった。約6600万年前に恐竜を死滅させた要因は小惑星の衝突後の気候変動であったと推測されているが、現在の絶滅原因はもっと複雑である。森林伐採・密漁・病原体の蔓延・乱獲、そして気候変動など、様々な原因が混在している。
明らかに地球温暖化が原因である例を見てみる。
象や大型類人猿が絶滅危機にあるということは注目されているが、実はキリンはこの30年間で4割近くも減少している。なかでもウガンダを中心に生息するヌビアキリンは、この30年で97%も減少。大型哺乳類の中でも、最も絶滅の危機に直面している。キリンの生息地アフリカでは人口増加や家畜の過放牧も原因として挙げられるが、気候変動によって牧畜民や農民は手つかずの原野も利用せざる得なくなった。それがキリンの生息地を脅かしている。これは一例に過ぎない。
【植物】
生物多様性の危機は動物だけでなく、植物にも及んでいる。1750年以降(産業革命以降)、少なくとも571種類の植物が野生化で絶滅した(ナショナルジオグラフィックより)。
日本では、北海道の高山植物が減少、南方系の常緑樹の拡大化など、多くの植物の生息地が変化している(国立環境研究所より)。
海の生態系への影響
北極・南極の氷の融解・雨量増加による淡水量の増加や、エルニーニョなどによる水温上昇は、多くの海洋生物や植物にも影響を及ぼしている。一部ではあるがレポートしてみよう。
まずは、「ウミガメ」である。ウミガメの性別は散乱する砂地の温度で決まり、温度が高ければ“メス”が生まれやすい。温暖化により熱帯地方の砂浜の温度は上昇しており、オーストラリアの北部、グレート・バリアリーフでの調査では99%がメス化していると研究発表された(生物学専門誌「Current Biology」より)。
ウミガメの卵は砂で温められて約2か月で孵化するが、適性温度は24〜32℃であるため、この温度幅から外れた温度に長時間さらされると死に至る。そのため、今、産卵場所の緯度が上昇している。従来の生殖地でウミガメは生きていけない状況にあることが問題になっている。
写真)「全種に絶滅の危機が迫る、ウミガメ」 WWFジャパン
海には大気のCO²を吸収する役割がある。多くの海洋生物が集まるサンゴ礁は、生物多様性を維持するために貴重な場である。地球温暖化により海面上昇が起こると、サンゴ礁と共存している褐虫藻が喪失。長期に褐虫藻がいなくなることで、サンゴ礁は栄養を受け取ることができず死滅、白化する。サンゴ礁が白化するその他の原因として、北極南極の氷が溶け出したことによる海面上昇による低塩分・温室効果ガスによる水温の上昇・異常気象による台風の巨大化・強い日光や紫外線によるストレスなどがあげられている。
写真)ナショナルジオグラフィック
その他、クラゲの大量発生や、プランクトンの大量発生による赤潮、一種類の生物増加などの生態系のバランスの崩壊現象が各地で見られる。豪雨や北極・南極の氷融解による淡水量の増加が問題で、塩分濃度に適応できない生物は、絶滅してゆく。また、海水温の上昇に伴い、北半球は北へ、南半球は南へ海の生物が移動生息していることが報告されている。
写真)パナマ沖水深300m以上の海底に強大蟹レッドクラブが大量発生 ARS Technica
人への影響
第一次産業(農林水産業)への影響
『世界の植生分が変化』してしまった。南限・北限といった成長の限界が高緯度方向に移動。人間社会より動植物にまずは影響が出る。では、第一次産業にはどういった変化が出て、何が求められるのであろうか。
温暖化がもたらすものは、洪水量の増加、温度の変化による原生植物の減少、土を作る微生物の変化など大きな影響を与える。
【農業】
植物には、それぞれの品種によって適切な成長温度・水量というものがある。温暖化で地域温度が上昇することにより、原生種は存在できなくなる。また、土の中の微生物までもが、変化に適応できるものとできないもの、新たに発生してしまうものが出てくる。それとともに、温度の変化によって有害である昆虫やバクテリアなども発生する可能性もある。それに適応できない従来の物から、その時その時の気候に合わせたものへ収穫物を適応していくことが求められる。一年で収穫できる野菜などは、その変化にまだ追いつけるものもあろうが、果樹のような長年かかる収穫物に関しては、収穫高の減少・作物の枯死も余儀なくされる。
【林業】
世界の植生分布が変化をし続けている現在、原生の樹種の維持が難しくなっている。日本に多く分布する、ブナをはじめとする落葉広葉樹林は冷温帯で生息可能な樹種である。保湿力が高く、大型動物の住処でもあり、最も豊かな自然生態系を作っている。しかし、このまま温暖化が進むとなると、落葉広葉樹林は90%が消滅すると予測されている。樹種の大部分は、ブナ帯からシイ・カシ帯である常緑広葉樹林に移るであろう。日本の森林は40%が人工林。原生林が存続できない環境下では、新たなる樹種を植え付けなおさねばならない。現在の樹種では永続的な林業が存続できないことが予測される。
【漁業】
温暖化により海水の温度は上昇した。生物多様性のバランスが壊れ始めている。潮の温度変化により、徐々に海洋生物は北半球は北へ、南半球は南へ、高緯度方向に移動を始めている。従来獲れていた種が、獲れなくなってきている。
人の健康への影響・感染症の増加
上記は地球の影響や、生態への影響を記した。これはほんの一部にすぎない。しかし、これだけの生物に影響があるということは、われわれ人の健康にも気候変動は直接的、間接的な影響を及ぼしているのが理解できるのではないか。直接的には暑熱や熱波の増加は熱中症などの症状を引き起こし、それに伴い死亡率の増加が近年は見られる。また、異常気象の頻度や強度の変化は死亡率の増加を招く。豪雨や台風の災害は、われわれの生活や命をも脅かす。
間接的には、異常気象による熱波や洪水による自然環境の変化は、生息していなかった新たなるウイルスの発生を助長する。
気候変動で温度が上昇する影響によって発症する可能性のある感染症に着目してみる。デング熱や日本脳炎・マラリア・ウェストナイル熱・ソフトバレー熱・ダニ媒介脳炎・ハンタウィルスハイ症候群などは、温暖化により感染症を媒介する動物(ネズミや蚊・ダニ・コウモリなど)の生息域が拡大し、感染症を増大させる。それと並行して下痢症(コレラなど)は、水の汚染や土壌汚染がウイルスを媒介させ、飲み水や食物からの感染を拡大すると予想される。
ウイルスの特徴として、ウイルスそのものでは繁殖できない。他生物の有機物により繁殖するのである。よって、はじめは媒介動物に感染し、媒介動物から人へと感染する性質に変容したウイルスは、人から人へと感染することにより感染拡大が起こる。
温暖化と感染症による健康被害は、どの程度、どのように影響するのか、まだ判明できていない部分も多くあるが、媒介動物の分布域が拡大する傾向・高温に伴って感染力が増大する傾向などが見られることは多くの研究結果で判明している。
図:筆者(明石純子)制作
参考文献:「地球温暖化と感染症 今、何が分かっているのか?」環境省 / 写真)蚊: Wikipedia・ネズミ:SIMADA probuster..jpより
世界をパンデミックに陥れた今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の詳細はまだ、ウイルス専門家でさえわからないことが多い。しかし、気候変動により媒介動物が増加することにより、感染症はうつりやすくなっていることは明らかだ。新型コロナウイルスは初めはコウモリが媒介動物だったのではないかということが判明し始めた。新型コロナウィルスだけでなく、新型のウイルスは他にも多く発見されており、これからも気候変動により多種類のウイルスが発生していくことは予測されている。われわれ人間もそうであるが、その生物には生態を維持できる適性温度がある。異常気象により滅びゆく種類も出てくれば、それに準じて変化し新たに発生し、生息し始める生物も出てくるのは当然の現象である。ことウイルスに関しては、温度変化にともない新型へと変化しやすい傾向が見られる。そこに、媒介生物の増殖現象が起これば、これから先、新型ウイルスが増加することは予測されるであろう。初めは媒介動物に感染していたウイルスが、人に感染し始めると、そこから人から人へと感染が拡大される。
このコロナ禍で多くのマスメディアでは取り上げられていないが、中国では新型株の新型豚インフルエンザが発見され人に感染したことが確認されている。今年の6月29日、米科学アカデミー紀要(PNAS)から発表された論文では、「G4」と名付けられたこの新型豚インフルエンザは、人間に感染する「あらゆる基本的特徴」を備えており、新たなパンデミックの可能性もあると述べている。
図:筆者(明石純子)制作
参考文献:医療ニュースネットワーク カンザス大学院、カンザス大学
日本の状況をまとめてみよう
参照)「地球温暖化と感染症 今、何が分かっているのか?」 環境省/ 資料制作:筆者(明石純子)
媒介動物からうつる間接的感染症である日本脳炎、マラリア、デング熱、ウェストナイル熱、リフトバレー熱、ダニ媒介性脳炎、ハンタウイルスハイ症候群は、媒介動物の増殖により感染が増加する。それとともに、環境の変化により、新型のウイルスは予想できない脅威を持つものが出てくると予想される。温暖化により媒介動物の増加と分布域の拡大は、これらの感染症に今後も影響を及ぼす。
具体的に、一つの感染症であるマラリアを例に挙げて検証してみる。今後、日本では温暖化に伴い媒介動物である蚊の発生数が増加すると予想される。熱帯マラリアの媒介蚊として知られるコガタハマダラカの生息が沖縄で確認された。水田地帯に多く発生する媒介蚊ハマダラカは夜間に、活動して血を吸う性質(夜間吸血性)を持っている。マラリアは温暖化によって新たに日本に侵入した感染症ではない。以前から存在していたものである。過去マラリアの流行は発生数が減少したが、しかし温暖化により媒介蚊の分布域が今後広範囲に広がると予想されること・媒介能力が高い蚊であること・海面上昇に伴い海抜に変化が起こることなどが理由に、今後増加することが予想される。温暖化や大規模な自然環境が変化することにより“再発・再流行”する可能性が最も高い感染症だと言える。今後も、この動きに目が離せない。
われわれが感染症から学ぶこと
今、全世界では人の行き交いが封鎖され、経済活動が停止もしくは縮小が余儀なくされている。ボーダレスに絡み合った世界経済。物の移動、人の移動がストップされた今後の世界経済は、第二次世界大戦前に起こった世界恐慌をしのぐ経済不況が、日本だけでなく世界で起こり始めている。今回の感染者死亡による労働人口が縮小されたことに伴う被害もあるであろう。人々が経済活動をできない時期が長引けば長引くほど、企業は倒産や縮小、それに伴う失業者の増加が見込まれる。複雑に絡み合い経済のバランスをとっていた世界経済は悲惨な状態になってゆく。
今回の新型コロナウィルスが最初に発症した中国は世界の工場と呼ばれ、多くの生産物の拠点となっていた。中国の工場が停止することにより物の移動がなくなり、流通がストップせざるを得なかった。中国に多くの生産拠点を持つ海外企業は、大きな打撃を受けた。
しかし、新型コロナウイルスの影響はマイナスだけではなかった。
工場の停止・移動制限を余儀なくされた中国の上空には大きな影響が見られたのだ。地球観測衛星「Sentinel-5P」の観測データは大気汚染物質を観測目的としている。2020年1月下旬から、中国では二酸化窒素濃度が大幅に低下しているのがわかる。感染拡大や対策と連動するように中国をはじめ、EU諸国、欧米でもその傾向は見られた。
中国の工場が停止したことにより、大気汚染物質の濃度を弱めただけでなく、温暖化の原因である一酸化炭素やメタンの減少した。もし工場がエネルギーを使用しなかったとしたら、環境汚染や温暖化に多大なる影響を与えることがなくなるという証明である。それなら、工場を停止し、人々が移動しなければ温暖化や大気汚染が止まるのかもしれない。しかしそれでは経済活動が停滞し、世界経済は衰退してしまう、現実的な提案ではない。そんなことを述べているのでない。もし仮に、このエネルギーが低炭素エネルギーである自然再生エネルギーを使用し、新しい循環型社会を形成するのであれば、生産はしつつ、経済活動も守られつつ、大気汚染にも温暖化にもかなり効果があるのではないかと言いたい。
今、まさにビルド・バック・ベター(よりよい復興)とニューノーマル(新たな社会)の構築が必要とされているのではないか。
世界での影響
世界各地で大気汚染が大幅に減少した。ロックダウンや外出自粛・外出禁止令を強制したNY、パリ、ミラノソウルなどの都市では大気の質が向上した。イタリアでは40%、パリでは60%のCO²の減少が見られた。韓国ではPM2.5が54%減少(参照:https://edition.cnn.com/2020/04/22/world/air-pollution-reduction-cities-coronavirus-intl-hnk/index.html)。
イギリス環境ニュースメディアCarbon Briefが発表したデータによると、16億トンの温室効果ガスがこの半年で減少したことを記した。これは3億5000万台の車が減ることに相当する量である。
視覚化して見られた現象としては、ベネチアの運河が鮮明なエメラルド色を取り戻した。観光客がいなくなったことで、ごみの排出量は減り、運河を走るモータボートの稼働数減少が原因ではないかと言われている。
欧米では、都市化によって野生生物の住居が失われてきたが、人の出歩く数が減少することにより、バルセロナでは猪、サンフランシスコではコヨーテ、パリでは街中では鳥の囀り声が帰ってきた。
インドではこれまで大気汚染で見られなかったヒマラヤ山脈が、離れた各都市からも確認できるようになった。
これらは、人間の活動がいかに今まで自然界に負担をかけ続けてきたのかをあらわにしているのではないであろうか。
世界的に悲惨な状況を与え続けている新型コロナウイルス。もし、この悲惨な体験を活かす方法が唯一あるとするのであれば、われわれ世代が「気候変動と感染症」の関係を改めて認識し、二度とこのような悲惨な体験をしないよう、次世代にこのような経験を持ち越さないよう、「今まさに選択を改める機会にするしかない」のではなかろうか。
この記事を書き続けた数日間、刻一刻と世界の感染者数と死亡数は増加し、レポートの数字を書き換えねばならなかった。レポートを書き始めた時、感染者数と死亡者数は数万人であった。それが今や数十万人へと移っていった。悲惨な状況であることは分かるが、大きな数字になればなるほど自分ごとから人は離れてしまう傾向にある。覚えていてほしい・・・数十万人という単位ではなく、一桁の「0」が「1」に変わるその「1」には、家族がいて、仲間がいて、生活があった『命の数字』ということを。亡くなった方の生命の数字であるということを。1年前に、誰が自分は数ヶ月後に命を落とすと想像していたであろうか。
コロナ危機が地球にもたらした影響
温室効果ガス8%減 IEA発表
世界的に痛みを伴った今回のコロナ危機、各地でロックダウンが実地され、移動規制、経済活動の停止、企業や個人の日々の活動も多くの抑制を強いられた。しかしそれによってエネルギー需要は大幅に落ち込み、大気汚染も改善、水質がよくなった地域も見られた。空気は澄み渡り、もとの生殖地であった動物が帰ってきた。
このような経済の動きを止めて、国際エネルギー機関(IEA)は、温室効果ガスが2020年前年度比の推計8%減少するであろうと発表した。
この「温室効果ガス8%減少」は、パリ協定で目指す「2030年までに産業革命前と比べて気温上昇を“1.5℃ に抑える”」目標値の一年分に相当する。つまり、ロックダウンや経済停止状況、われわれの生活が滞る状況で初めてこの目標数値に達するということだ。この8%の減少状況を10年間維持して初めてパリ協定の目標値を達成できる。このような苦痛な社会活動抑制してやっと到達できるのだ。われわれに突き付けられた課題の大きさと重さを思い知らされた数字となった。
コロナ危機後の経済回復・社会活動はどうあるべきか―グリーン回復を目指して
世界を巻き込んだ痛みを伴う経験を、われわれはどのように生かしていくべきであろうか。これほどまでの危機ではなかったが、近日記憶に新しい世界的経済悪化と言えば、2008年のリーマンショックがある。この時、各国政府は短期的経済刺激策として多くの政策を実行したが、その経済刺激策により温室効果ガスは増加した。今回のコロナ危機では同じ鉄を踏んではならない。
このコロナ危機を脱炭素化に向かう社会と経済・国家政策に切り替えるチャンスと考え、われわれは行動していかねばならない。地球環境を考えたうえに立って、経済成長・雇用回復・産業の成長・個人の生活を高めるような包括的な長期的戦略を立てる必要がある。国家の政策・産業構造も含めて議論することを求められていると思う。つまり、これを重要な改革の機会、脱炭素化社会を構築する「チャンス」と捉えることが重要なのだ。
確かに今、回復を急務とする企業にとって利益は重要である。国にとっても、国家を基盤とする税収と使い道・補助金の財源の確保は急務を要する。だからこそ、その使う方向性を明確にし、ビジョンを持ち、実現する必要があるのだ。ここで持続可能性をおざなりにするリスクを避けることが重要だ。短期的利益を追い求めて景気刺激策を行えば、逆に近い未来将来、コストが大幅に必要となってしまうのである。
あと10年したら、気温上昇1.5度に到達してしまう時間軸のなかで、気候変動の問題を避け無視して経済復興していいはずがない。
国連事務総長アントニオ・グテーレス氏は「経済復興が、パリ協定の目標に沿った持続可能で包括的な経済を構築するものになるようにしなければならない」と言及した。
この10年の動きで、温暖化が感染症やその他台風や高波、豪雨、作物の収穫減、生態系へのアンバランスな影響などの危機を増加させていることを認識し、今改めて脱炭素社会へと選択をし直すべき時なのである。政府の対策や世界政策に任せる他人事的視点ではなく、国際社会・政府・民間企業・そしてわれわれ個人が認識を改め、行動に移す新たなる選択が必要なのだ。もう、こんな悲劇的な体験を次世代に経験させないためにも、われわれ世代と次世代が永続的な経済の営みを続けるためにも、今、まさに試されているのだ。
人間は自然の一部であり、また、一部でしかない。自然と共存できる持続可能なエネルギーの選択と、経済活動である農業・林業・漁業・工業・サービス業・情報産業や教育・医療・福祉・政治といったあらゆる角度から脱炭素社会を構築する選択へと、移行しようではないか。
気候変動の問題は、「できるかできないか、やるべきかやるべきでないか」という問題ではもはやない。私たちの地球・人類の存続・地球に存在するすべての生きるもののために、われわれの世代が絶対にやり遂げなければならないことなのである。サステナビリティというと、苦しく、大変で面倒な理想論のように捉える人もいるかもしれない。しかし、そうではない。コロナ禍で初めて達成した8%のCO²削減。もし、脱炭素へと移行した社会になった時には、この苦痛な生活スタイルでなく、我慢とは違う構造で削減が可能になっていくと考える。
では、具体的に何をすべきであろうか。
国の政策としては、
- 大量の温暖化効果ガス排出に繋がるような活動を助長する補助金を止める
- 直ちに炭素を出し続ける石炭・ガス電力から自然再生エネルギーへ移行政策をとる
- サステナブルなエネルギー以外のものへの炭素税制度を作る
- 脱炭素企業への補助金制度の確立
- スウェーデンで可決されたような「気候変動政策の枠組み」と気候法を確立
- 持続可能社会・地球を築くための教育システムの確立
- 廃棄するものの細分化政策(リユース・リディース・リサイクル・アップサイクルを意識すること)
- 集約的中央集権的政策を地方分権に渡し、地方自治の充実した政策へ移行
金融面では、
- 公共調達におけるサステナビリティ基準作り
- グリーンボンドの開発拡大
- 産業が脱炭素化へ移行する時の経済的サポート
- 脱酸素を支持する投資家へのインセンティブや機会を提供
企業では、
- 脱炭素システムの構築
- 生産から廃棄までサステナブルを意識したものつくり・ごみを出さない製品つくり
- 省エネルギー技術・開発
個人では、
- エネルギーを自然再生エネルギーへチェンジ
- 省エネを意識する
- 使い捨てのものではなく、長期に渡り使えるものを選択
- ごみを最小限に抑える生活と選択
- 大人が積極的に学び、行動し、次世代への各家庭での教育する
- 生産時に温室効果ガスを出す家畜をさけ、タンパク源を他に移行する
- 積極的に環境に配慮した企業や団体・個人や製品を支援する
- 残さず食べる
- 石油・石炭を支援・出資している銀行には預金しない
- 気候変動解決・SDGs達成のためのコミニティーを作る・参加する
提案は上げていけばきりがない。我慢や苦痛ではないシステムや選択の変更、工夫でいくらでも脱炭素社会は作れるのである。政府が、企業が、生産者が、教育が、と他のシステムや政策を批判したところで解決には向かわない。各人がそれぞれでまずできることから始めるしかない。
100万人都市であった江戸は、ごみを3%しか出さなかった循環社会を創っていた。われわれ日本人はそういった「もったいない」意識と、工夫と真面目に取り組む人種のDNAを持ち合わせている。現に、今回のコロナ禍にはロックダウンをせずに拡大を一定期間抑えられたことが証拠ではないか。日本人は問題に気がつき、解決に向かう時、しなやかに行動できる連帯感のある民族なのである。
気候変動は行政・民間・個人が今まさに取り組む課題は、それぞれが別々に取り組む問題ではなく一体となって乗り越えねばならない危機なのである。感染症も、豪雨や台風といった自然災害もすべてわれわれの選択にかかっているのだ。
そして、一人一人が「どんな未来を次の世代に残していきたいのか」「どんな社会を築きあげたいのか」、然りとビジョンを持ち、しなやかに潔く、そして己を信じ、できることから行動して行くしかないのだ。
もう、人任せにする時期は終わってしまった。あなたから始まる未来への地球のあり方への行動がある。
地球温暖化をこれ以上進めてはならない。悲しい命の数字を未来増加させないためにも、われわれ世代にしかできない新たなる選択をともに考え、行動に移していきたい。