近年、世界的な問題となっている「パーム油」。
みなさんはご自身の使用する商品にパーム油が使用されているのか、またはどのようなパーム油が使用されているのか、考えてみたことはありますか?これは今や、私たちの生活、次世代の未来、たくさんの命に関わる大変重要なテーマです。

パーム油がなぜそれほどまでにホットトピックになっているのか、またパーム油問題に対するオーガニック先進国ドイツの対応をオーガニックコスメ業界からお話します。

野生動物の生息地を奪うアブラヤシ農園

ボルネオ島の怯えた表情のオラウータン写真提供: Jayaprakash Joghee Bojan(instagram:@jayaprakash_bojan/)

 

まず、この写真を見てください。
何の写真だか分かりますか?

これは、ボルネオ島のオランウータンを撮影した写真。
しかし、これまで見たことのあるオランウータンの写真と異なるのは、怯えた表情で木に掴まるその印象的な姿。さらに、本来オランウータンは木の上で生活することが多く、その長い腕はむしろ川で泳ぐには不向きなのですが・・・なぜ、このオランウータンは怯えた表情で川を渡ろうとしているのでしょうか?

 

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その答えは、「ボルネオ島ではパーム油が採れるアブラヤシを植えるために森林伐採が進み、オランウータンの生息地が広範囲で消失しているから」なんです。

そもそも、パーム油って何?

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パーム油はアブラヤシの果肉から得られる油脂で、今や世界で最も多く生産されている植物油です。

2016/17年 世界の植物油生産量:

第一位:パーム油6,614万トン
第二位:ダイズ油5,345万トン
第三位:菜種油2,510万トン

(データ出典:一般社団法人 日本植物油協会)

生産量が多く価格も安いので、食用油とするほか、マーガリンやチョコ、クッキーなどのお菓子、化粧品、石鹸、クリーニング製品の原料、そしてバイオ燃料など、非常に多くの製品中に使用され、特に近年では人口の多い国での需要が急増しています。

 

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しかし、これほど身の回りに溢れているにも関わらず、それを知らないと言う人も多いのではないでしょうか。なぜなら、日本の食品表示法ではパーム油は「植物油脂」と記載すればよく、製品の表示ラベルを見るだけではどのような植物油が使用されているのかは分からないのです。

世界的に拡大したパーム油市場の落とし穴

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そして、このパーム油をめぐっては世界規模でとても深刻な問題が起こっています。
パーム油の生産量が多いインドネシア、マレーシアなどではアブラヤシ農園を拡大するため森林伐採が継続的に行われているのです。

以下、パーム油の国別生産量です。

2017年 パーム油国別生産量:
第一位:インドネシア3,380万トン
第二位:マレーシア2,070万トン
第三位:タイ252万トン

(データ出典:Oil World Annual)

日本はこのうち年間70万トンを輸入しています。また、USDA(アメリカ合衆国農務省)が2019年に公開したデータによると、「世界の人口増加に伴い、パーム油の生産量は2050年までに3倍になる」と予想されています。(USDA 2019.Increase in global palm oil production(2015-2019))

つまり、このまま私たちが何もアクションを起こさなければ、パーム油の増加する生産量に合わせ、熱帯林が継続的に伐採されていくのです。

プランテーションが奪う命と未来

パーム油生産のための森林伐採により、下記のような問題が起こります。

パーム油生産による問題① 環境問題

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  • 熱帯林消失:国際環境NGOグリーンピースによると、過去50年間でインドネシアの熱帯林の7,400万ヘクタール以上がパーム油生産のために「伐採、焼失、劣化」しています。
  • 生物多様性の喪失:アブラヤシのみを植栽するモノカルチャー(単一栽培)は、従来の品種を消滅させます。また野生動物が住処を奪われたり、限定的な「餌」しか得られなくなるという問題を引き起こし、生物多様性を喪失させます。
  • 温室効果ガスの大量排出:パーム油生産のために伐採される熱帯林には「泥炭地」が含まれます。泥炭地とは、植物が完全に分解されずできた土が堆積した土地を言い、大量の炭素を含みます。東南アジアの森林に覆われた熱帯泥炭地には、少なくとも420億トンの炭素が貯蔵されていると言われます。これは世界のCO2総排出量である約331億トン(2018年)を超える量なんです。

そんな泥炭地の上に広がる熱帯林を伐採すると、泥炭は空気に触れ分解が進み、温室効果ガスとなって排出されるのです。また、開発を行う際に排水路を作ることで泥炭地の乾燥化が進み、火災によるリスクを劇的に増加させています。

パーム油生産による問題② 社会問題

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  • 地域住民との軋轢(あつれき):アブラヤシ農園は大規模な土地が必要となるため、土地を奪われた地域住民との土地紛争が起こっています。
  • 労働者の人権侵害:大規模なアブラヤシ農園は、移住労働者や日雇い労働者が安価な賃金で雇われています。また達成困難なノルマ・罰金を課す強制労働、農薬による健康被害、児童労働といった人権侵害の問題が後を絶ちません。

パーム油問題緩和の糸口は「消費行動の見直し」

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あまりに大きくなりすぎたパーム油問題。私たちが今、消費者としてできることは、パーム油を取り巻く深刻な状況をきちんと理解し、私たち一人一人の選択こそがこの問題を解決する糸口になり得ることを知ることだと思います。

これから商品を手に取るときには、ぜひパーム油に注目してみてください。その企業がパーム油を使用しているのか、またはどのようなパーム油を使用しているのかを事前に調べておき、製品の選択基準にしてください。

また情報が無い場合には、企業へ問い合わせて開示を求めるなど、消費者として生産者へどんどん働きかけていっていただきたいと思います。

ドイツのオーガニックコスメに見るパーム油事情

ではここからは、ドイツを始めとした欧州オーガニックコスメメーカーのパーム油事情を、代表的なブランドとともに詳しくお話ししたいと思います。

ドイツのオーガニックコスメは「環境保護」をコンセプトのひとつにしているものが多いのも特徴で、問題になっているパーム油は必ず注目される原料です。

オーガニック先進国と言われる欧州ではどのような対応が取られているのか、ぜひ参考にしてみてください。

※今回はブランド自体の詳細紹介はしていません。いずれも欧州の有名オーガニックコスメブランドです。
そのトップブランドメーカーたちがどのような活動をしているのかを見ていただければと思います。

ドイツの代表的なオーガニックコスメメーカー

Dr.Hauschka(ドクターハウシュカ)】

オーガニックコスメブランドDr.ハウシュカ写真提供:ドクターハウシュカ

 

Dr.ハウシュカの100を超える製品の中で「パーム油」が使用されているのはコンシーラー(ニキビ、炎症肌用)のみです。そこにはオーガニックパーム油が使用され、そのパーム油も環境問題が指摘されるインドネシア、マレーシアなどの東南アジアのものは使用せず、環境保護の厳しい要件を満たした南アメリカのものを使用しています。

その他の製品に対しては環境や生命を考慮した代替成分を常に探求し、その素晴らしい品質を誇っています。

続いて、他のブランドについてお話するそのまえに、「ある団体」について説明させていただきます。

持続可能なパーム油フォーラム(FONAP)を知ってますか?

みなさんは、【FONAP】(ドイツ語:Forum Nachhaltiges Palmöl)、日本語では「持続可能なパーム油フォーラム」をご存じでしょうか?

これは、パーム油の問題が深刻化する中、化粧品メーカーを含む企業、WWFドイツ支部などが設立した団体で、「ドイツ、オーストリア、スイスで使用されるパーム油が、100%持続可能な認定を受けたものにする」ことを目的とした団体なのです。

しかし、そこは環境大国ドイツ。多くのコスメブランドは既にピュアパーム油について「使用しない」または「持続可能なものを使用」を実現しています。

ただ、ここで難しいのがパーム油の派生成分です。成分が出来上がるまでの全ステップを検証し、少量のパーム油が含まれた「パーム油派生成分」までも認証するのは本当に至難の業。

そこで「FONAP」として多くの企業が一致団結し、「今後、すべてにおいて持続可能なパーム油を使用していく」ということをサプライヤーに宣言しています。それにより、ピュアパーム油はもちろんのこと派生成分までも、その栽培・生産ルートに「透明性」のあるもののみを使用していくために活動しています。

その他、欧州のオーガニックコスメメーカー【Annemarie Börlind(ドイツ)】【WELEDA(スイス)】

Annemarie Börlind(アンネマリーボーリンド)】

オーガニックコスメブランドアンネマリーボーリンドロゴ

画像提供:ボーリンド

 

ボーリンド社では、ピュアパーム油、パーム核油はどの製品にも使用しません。
ですが歴史の長いボーリンド社は、昔から続く商品の一部に「パーム油派生成分」を使用します。

派生成分としてのパーム油の年間使用量は多くはありませんが、「FONAP」のメンバーであるボーリンドは、その派生成分についても100%持続可能性を求め厳しい企業努力を続けています。

また新製品に関しては代替成分の開発を試み、自然に責任を持った製品開発・生産をすることを約束しています。

 

WELEDA(ヴェレダ)】

 

オーガニックコスメブランドWELEDAロゴ画像提供:ヴェレダ

 

ヴェレダ社ではピュアパーム油、パーム核油はどの製品にも使用しません。
石けんなどの商品に「パーム油派生成分」を用いています。

派生成分としてのパーム油の年間使用量は多くはありませんが、その成分についても100%持続可能性を求め、社内で厳しい検証を行っています。

またヴェレダも「FONAP」のメンバーであり、化粧品市場のみならずあらゆる市場から自然や動物を傷つけ得られるパーム油を無くすため活動しています。

今回は、私が在住するドイツでのパーム油事情をお伝えするため、ドイツが牽引する「FONAP」をお話しましたが、パーム油関連の組織では国際組織として「RSPO:Roundtable on Sustainable Palm Oil(持続可能なパーム油のための円卓会議(ラウンドテーブル)」があります。

ボーリンド社、ヴェレダ社は「RSPO」のメンバーでもあり、世界的に持続可能なパーム油の生産と利用を促進する活動に参加しています。

パーム油問題を通して、未来のための「責任ある生産」と「責任ある消費」を考える

shutterstock

 

ドイツでは多くのオーガニックコスメブランドが、環境対策の中で「持続可能性」(サステナブル)を重要視しています。その原料が森林伐採や自然破壊などを繰り返しながら、人間の手により無理に作られることなく、自然と調和し継続的に使用できるものであること。これを守るため企業努力を重ねています。

現在おもに問題になっている東南アジアのパーム油は、環境と社会において多くの犠牲を払うことでしか成り立たないという点でサステナブルではありません。

企業は、人・社会・環境・地球に責任を持ち生産する。そして消費者はその生産背景に興味をもち、企業から与えられるものをすべてOKとするのではなく、「関わっていく」ことで責任ある消費をしなくてはなりません。

私たち消費者一人一人の行動が、これから5年先、10年先の未来を変えていくのです。

 

 

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ボリビア島のオランウータン写真提供:
Jayaprakash Joghee Bojan (instagram:@jayaprakash_bojan/)

参考資料:
Aljosja Hooijer (Delft Hydraulics), Henk Wösten (Alterra), Marcel Silvius (Wetlands International), Susan Page. Peat CO2(最終アクセス日:2020年2月29日),https://www.wetlands.org/publications/peat-co2/
ERWIDA MAULIA and P PREM KUMAR (2019). Palm oil: Indonesia and Malaysia push back as EU clamps down-Producers threaten legal action while rushing to shore up industry(最終アクセス日:2020年2月29日), https://asia.nikkei.com/Spotlight/Asia-Insight/Palm-oil-Indonesia-and-Malaysia-push-back-as-EU-clamps-down
国際環境NGO FoE Japan. 泥炭地からの炭素排出とパーム油プランテーションの事例(最終アクセス日:2020年2月29日) , http://www.foejapan.org/news/pdf/13_wetlandsI.pdf


日本では手に入らないオーガニック情報

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