今回は欧州に次ぐオーガニック大国オーストラリアから、ミツバチの巣の材料である蜜蝋(ミツロウ)を使ったオーガニックキャンドル(ロウソク)を製作しているNorthern Light社の訪問レポートをお届けします。
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ミツバチが減少するとどんな影響があるのか?
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今、世界的にミツバチの数が減少しているというニュースを耳にしたことがあるでしょうか。ミツバチは、全世界の農作物の7割を受粉していて、ミツバチがいなくなると私たちが食べる野菜がなくなるばかりか、家畜の飼料も育たなくなり、肉や乳製品も食べられなくなります。そして繊維も取れなくなるため、衣服にも困ることになると予測されています。
そのミツバチの数が世界的に減少している原因のひとつに、農作物に使われる農薬(化学肥料や殺虫剤、除草剤など)が挙げられているのです。
Northern Lightの創設者、ジェフはミツバチの絶滅を食い止めるために、このキャンドルビジネスを続けています。
ストレスが溜まるミツバチと健康なミツバチの違い
ジェフをご紹介をするまえに、キャンドルの原料であるミツロウを作り出すミツバチの養蜂について、少しお話ししましょう。
たとえば農作物の開花時期にミツバチを使って受粉させる養蜂。この場合、農作物の開花時期に合わせて、大きなトラックでミツバチの巣箱を運ぶ必要があります。農家にとっては非常に手間のかかる受粉作業をミツバチが代わりに行なってくれるのですから大事な作業です。
養蜂家にとってもミツバチのすぐ近くに蜜源があり、常にはちみつを作ることができるため、生産効率が上がります。ただし、ミツバチ側の視点で見た場合どうでしょう。
何時間もの間トラックに乗せられて長距離を移動させられ、細かな振動やエンジン音、排気ガスなどは相当なストレスを感じるでしょう。巣の周辺の気候も急激に変化するのでミツバチの体調にも影響が出るでしょう。到着した畑一帯は、同じ花しか咲いていません。毎日同じ花の蜜以外、採取することができないのです。これもミツバチにとっては栄養が偏ったり、ストレスの原因になると思いませんか。
そして、その花たちには農薬(殺虫剤や枯葉剤)が使われているのです。直接農薬が当たらなくとも、農作物の表面や内部にまで化学成分が浸透しており、多くの調査ではちみつの中に残留農薬が確認されています。
一方で、山の中に巣箱を設置してミツバチが自然に赴くままに花粉を集めてくる育て方もあります。一年を通じて四季を感じ、自分の羽で遠くまで飛んで、あらゆる花の蜜を集めます。時には敵となる昆虫や動物と出くわすこともあるでしょう。そんな野生に近いミツバチは免疫力も高く健康で、上質な蜜蝋やはちみつを生産できるのです。
ジェフはそういった養蜂家たちを支援しています。
世界中からオーダーが入るジェフのキャンドル
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Northen Light社はオーストラリア、ニューサウスウェールズ州の北端にあるリズモアという町にあります。
創設者のジェフは、どこまでも澄んだ青い瞳と真っ白でカールした髪と、白いリネンの上下がとっても似合う紳士でした。「18歳のある日、僕はミツバチに恋をして、以来ずっとミツバチ一筋なんだ」と言います。
彼のキャンドルは世界中から注文が入るほど人気で、一番大きな輸出先はドイツ。そして、カソリックの総本山であるローマのバチカン市国の大聖堂でも、ジェフのキャンドルが使われているのです。
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彼が招き入れてくれた倉庫は、オーストラリア中から集められたミツロウのブロックが山積みになっていました。ひとつのパレットに約1トンのミツロウ。全部で7トンほどあるそうです。これを溶かして、ケミカルや不純物を取り除き、キャンドルを作ります。
サステナブルな製法にこだわるキャンドル作り
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ここでは敷地内に雨水を溜めるタンクをいくつも設置し、その雨水を使って、ミツロウを湯せんにかけて溶かします。
水道水を使ってキャンドルを作る場合、水道に含まれる塩素がミツロウに溶け込んで、ロウソクを灯したときに、塩素成分が気化し、それが呼吸として人間の身体に入り、肺から毒素が吸収されて深刻な健康被害をもたらします。通常のパラフィンキャンドルのみならず、ミツロウやソイ(大豆)などナチュラル原料を使ったキャンドルでさえ、そのほとんどで塩素の混入が認められているそうです。
そんな被害が起こらないよう、ジェフは雨水で湯せんすることにこだわりと誇りを持って、キャンドルを作っています。そして地元のマカデミアナッツ農園から、破棄処分されるナッツの「殻」をもらってきて燃やし、雨水を温めています。温める部屋は太陽光がたくさん入るようにガラス張りのサンルームになっていて、部屋の温度を上げることにより火力に使うエネルギーが最小限で済むよう工夫されています。
3日間お湯の温度を約80度に保って湯せんにかけ、純金のフィルターで不純物を濾して製品にしています。製品化の過程でケミカルな物は一切使いません。100年前から続いている製法、100年後にもずっと続けていけるサステナブル(循環型)の製法にこだわっているのです。
危機的な状況にあるオーストラリアの養蜂
そんな彼の行く手を阻むものがあります。彼はその目に見えない大きなものと戦い続けています。それは、大手はちみつ企業と、そのバックにいる中国。
スーパーマーケットで手軽に購入できる大手のはちみつメーカーでは、「100%ピュアなオーストラリア産のはちみつ」と謳っていますが、本当はシロップで薄めていたり、中国産の農薬たっぷりはちみつを混ぜている。そんな企業なのです。(注1)
彼はオーストラリア中の養蜂家からミツロウを集めていますが、ミツバチ関連の商品が世界中で人気になっている今、オーストラリアのはちみつも、ミツロウも中国が買い占めており、仕入れが難しくなってきているとジェフは言います。
ジェフは「企業のビジネスは嘘つきばかりだ」と声を大きくしました。
「オーストラリアで生まれ育った自然の恵みであるはちみつやミツロウを、そんな企業の利益のために取られたくない」と。
ジェフには他にも戦う相手がいます。「ネオニコチノイド」と呼ばれる、農作物に使われる農薬成分。世界規模で問題になっているミツバチの大量減少の原因のひとつと言われています(日本ではお米の栽培に大量にこの農薬が使われています)。他にも、ミツバチを脅かすバクテリアや害虫たちや、どうあがいても逆らえない、天候の問題、などがあります。
養蜂家を教育するジェフの挑戦
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あのおいしいはちみつやかぐわしいミツロウを作るために、養蜂家たちは多大な労力と努力が必要です。それを安い値で大量に大手企業に持っていかれては、養蜂家の資金力がなくなり、設備も技術も知識も増えません。
ジェフは養蜂家たちからミツロウを受け取ったら、感謝の気持ちを伝えます。
「素晴らしいミツロウをありがとう。すごく出来のいいミツロウだね。僕はこのミツロウに、これだけの対価を払うよ。でも、来年もっと質のよいミツロウに仕上げてくれたら、もっと高い値段で買うからね」
こうやって彼は、養蜂家たちを金銭面でサポートし、蜂の育て方やトラブルが起きたときのアドバイスを無償で行ない、毎年、さらに質のよいはちみつ、ミツロウを作るために、知識面のサポートもしています。この地道な活動が大手のメーカーや中国などの大きすぎる相手と戦う武器になっているのです。
忘れられないハチミツの味
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一時間という短い時間の間、ずっと喋りっぱなしだったジェフが最後に庭の巣箱から分けてくれた極上のはちみつ。あの黄金色の液体と心まで甘くなった味は、きっといつまでも忘れないことでしょう。
今年の夏のオーストラリアの森林火災では、何十箱もの巣箱が焼けてしまった養蜂家が何人もいます。総勢10億以上のミツバチが焼け、死んでししまったとも言われています。
一方で、オーストラリアでは、野生動物病院にて火傷を負った動物たちの手当に養蜂家たちが提供した生はちみつが使われています。野生動物たちの火傷箇所に生はちみつを塗るとその強い消毒、殺菌作用を発揮し、保湿しながら皮膚再生を促して癒していきます。
生き残ったミツバチが再び活動を始め、数を増やすには花の蜜が必要ですが、焼け野原の森林が再生して花の蜜をミツバチに提供できるようになるまで3年から5年かかると言われています。
この記事を最後まで読んでくださったあなたが、もし「何かしたい!」という気持ちになったとしたら・・・
ぜひ、ご自宅の窓辺やお庭にミツバチの大好きなお花を植えてください。そのお花は農薬や化学肥料を使わずに育ててください。
そして「本物のはちみつ」を選んで購入してください。
(注1)
news.com.au. 3 Sep 2018. A report has accused Capilano and supermarket giants of selling fake honey, https://www.news.com.au/lifestyle/food/a-report-has-accused-capilano-and-supermarket-giants-of-selling-fake-honey/news-story/c696334cc809427d059aa52bb1357d23
ABC News. 3 Sep 2018. Capilano, Australia's biggest honey producer, and supermarkets accused of selling 'fake' honey, https://www.abc.net.au/news/2018-09-03/capilano-and-supermarkets-accused-of-selling-fake-honey/10187628