年中お肌につけているという方も多い日焼け止め。みなさんはどんな基準で日焼け止めを選んでいますか?
オーガニックコスメに興味ある方は、近年特に、日焼け止めがお肌に負担をかけているだけでなく、環境にも負荷をかけ、問題になっていることは聞いたことがあるかもしれません。
今回は、オーガニックコスメに興味ある方には絶対に知っておいて欲しい「オーガニック日焼け止め」についてご紹介しています。今後、あなたが日焼け止めを購入する際の参考にしてください。
Contents
日焼け止めに含まれるふたつの紫外線カット成分
まず、基本の知識である『紫外線カット成分』について。これは大きく分けると「紫外線吸収剤」「紫外線反射剤(散乱剤)」のふたつがあります。
「紫外線吸収剤」は紫外線カット力が強いですが肌の上で化学反応が起こるため、肌への刺激が強いことから一般的にオーガニック日焼け止めには使用されません。
一方「紫外線反射剤」は紫外線が肌に当たる前に反射することで紫外線から肌を守るというもの。紫外線吸収剤に比べて紫外線カット力は弱いとされるものの肌への刺激が少なく、オーガニック日焼け止めには一般的に「紫外線反射剤」が使用されています。
そして、ここからが本題。なぜ、後者の「紫外線反射剤」を使用したオーガニックコスメを選ぶべきなのか、ここからは「人体への影響」をテーマにエビデンスとともに説明していきます。
アメリカの最新研究による紫外線吸収剤の人体への影響
米食品医薬局FDA(注1)の最新研究では「市販の日焼け止めに配合される紫外線防御剤は皮膚から体内に吸収され血液中に流れ込んでいる」と発表されています。
この研究でテストされた紫外線防御剤は、
- アボベンゾン(t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン)
- オキシベンゾン(オキシベンゾン-3)
- オクトクリレン
- エカムシュル(テレフタリリデンジカンフルスルホン酸)
という4種の「紫外線吸収剤」。 どれも日本の大手メーカーの日焼け止めで見かける成分ですね。
日本の日焼け止めなどの化粧品におもに配合される「紫外線吸収剤」は
- メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(今回のFDA検査は対象外)
- オキシベンゾン-3
- t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン
の3種で「全製品の70%以上」を占めると言います。あなたがもし今ご自宅に 「紫外線吸収剤」使用の日焼け止めを持っていたら、今回の研究対象になった成分を含んでいる可能性が高くなるため、ぜひ確認してみてください。
(注1)FDA: 食品・薬品を中心に化粧品や玩具、タバコなど、消費者が接する機会の多い製品の認可や違反取締を行う機関のこと。
オーガニック日焼け止めによく見る「紫外線反射剤」ってどんなもの?
FDAの研究では現段階、上記の成分が体内でどのような影響を及ぼすのかまではわかっていませんが、逆に「わからないから怖い・・・」とも言えます。
このような危険性からFDAはすでに、承認済み16種の「紫外線防御剤」(吸収剤・反射剤含む)の再検査を開始していますが、現在のところ安全性と効果が確認されたのは「紫外線反射剤」として使用される「酸化亜鉛」「酸化チタン」の2種類のみです。
酸化亜鉛、酸化チタンといえば、オーガニック認証を取得したほとんどの日焼け止めが紫外線カット成分として用いている成分です。つまり、オーガニック認証を取得したオーガニック日焼け止め(注2)を手に取ってもらうことが、必然的に安全かつ効果的ということになるんです。
「紫外線吸収剤」は、その日焼け止め効果の高さを好んで使用される方が多いと思いますが、日常生活や屋外での軽いレジャーまではSPF30もあれば十分!日常で長時間つける日焼け止めは安全性を重視したものを選んでください。
(注2)すべての製品が酸化亜鉛、二酸化チタンのみということではないので、製品ごとに成分表示の確認が必要です。「ナノ粒子不使用」の酸化亜鉛、酸化チタンが安全性が高いとされ、近年のオーガニック日焼け止めは「ノンナノ」が主流となってきています。
欧州でも危険視されている紫外線吸収剤と環境ホルモン
EUには、欧州でも一二を争う環境先進国、スウェーデンに本部を置く環境NGOにより作成された「SIN LIST」というものがあります。これは「Substitute It Now!」=「すぐに代替すべき」という意味で、有毒性、発がん性、生体内蓄積性、変異原性など人体や環境に脅威をもたらす物質が管理されている国際的なリストです。
EUでは以前より「紫外線吸収剤」の人体への影響が盛んに研究されてきました。それらの研究を通し、「紫外線吸収剤」である「オキシベンゾン」「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」(上述通り日本の日焼け止めにも使用される成分)は「SIN LIST」において「環境ホルモン物質の可能性あり」として掲載されています。
日常用の日焼け止めは毎日欠かさず塗っているという人も多いと思います。365日、環境ホルモンの可能性のある成分が、体内に吸収されているかもしれない恐怖!
これこそが、今、オーガニック日焼け止めを選ぶべき理由のひとつなんです。オーガニック日焼け止めの利点をしっかり理解して、肌の健康を守っていってください。
人体だけではない、日焼け止め成分の影響とは?
ここまでは、日焼け止めの成分とその人体への影響についてお伝えしました。しかし日焼け止めを使用する私たちが知っておかなければいけないのはこれだけではありません。
実は、日焼け止め成分が環境にも大きな影響を与えてしまっていることをご存じですか?
ここからは日本ではまだあまり知られていない「日焼け止め成分の環境への影響」と、それを受けすでに世界で行われている取り組みについてお話しします。
日焼け止めの紫外線防御成分によるサンゴ礁への影響
昨今、多くの研究で海洋生物に毒性がある「紫外線防御成分」が明らかになってきています。そんな成分を含んだ日焼け止めが日々海へと流れ込み、その量なんと年間6,000~14,000トンと推定されています。
最も影響が大きいのはやはり日焼け止めを塗って海に入ることですが、それだけではなくシャワーで洗い流した廃水からも多くの紫外線防御成分が海へ流れ込み、現代の発達した廃水処理システムでさえこの汚染物質が海に流れ込むのを防ぐことはできないと言われます。
そして、それらの毒性成分によって懸念されているのが「サンゴ礁への影響」。
サンゴ礁は「海のオアシス」とも呼ばれ、様々な海洋生物に住処や産卵場所を提供し、海洋生態系の中で非常に重要な役割を果たしています。また、サンゴ礁は海水のCO2濃度を調整する海には不可欠な存在。要は、海洋の生き物たちの暮らしを守ってくれているのがサンゴ礁なわけです。
しかし、サンゴ礁がなくなることで影響を受けるのは実は、海洋生物だけではありません。私たち人間の生活にも恐ろしい影響が待ち受けていることをあなたは知っていますか?
たとえば、サンゴ礁は上述のように海洋生物の暮らしを守っていますが、具体的には地球上の25%以上、種にして9万種以上の海洋生物の生態系を保護しています。つまり、サンゴ礁がなくなることはそこに依存する大規模な種の絶滅に繋がるということなのです。
海洋生物の絶滅・・・この地球上では5億人が漁業を通じて生計を立て、40億人が魚からタンパク質を得ている現代、サンゴ礁の消滅は重要な食料源喪失をもたらし人間の生活基盤を脅かすのです。
さらにサンゴ礁は「バリアリーフ」とも呼ばれるように、高波を和らげる防波堤としての役割もあります。これにより、海抜10m未満の沿岸地域に住む約1億人が恩恵を受けている可能性が示唆されています。
知っておきたいオキシベンゾンの毒性
このように、人間を含めた生き物に計り知れない価値があるサンゴ礁を危機的状況に追い込んでいるという紫外線防御成分。その中でも特に、合成化学物質である「オキシベンゾン」は最も集中的に研究され、その毒性が指摘されています。
2015年の時点で、「少なくとも地球全体の10%のサンゴ礁と、40%の沿岸サンゴ礁がオキシベンゾンの毒性にさらされている危険性がある」という研究結果が発表されました。
オキシベンゾンはつぎのような毒性が明らかになっています。
- 様々な種の硬質サンゴ細胞の漂白化
- サンゴ幼生の損傷と変形
- サンゴの免疫力を低下させる
- サンゴのDNAとその繁殖生態へのダメージ
- 共生藻類に潜伏感染したウイルスの活性化
そんなオキシベンゾン、日本の大手メーカーの日焼け止めにもよく配合されるように、日本、欧州、米国では6%までの濃度で使用可能とされています。
なので一見、環境へ影響を及ぼさない値が各国で規定されているかのように見えますが、しかし実際には、ハワイのサンゴ礁地帯で行なわれた測定では、サンゴ幼生に影響を与えるレベルの12倍の高濃度でオキシベンゾンが検出されており、パラオのジェリーフィッシュレイクでは、紫外線防御成分による化学物質が高濃度で測定され、さらにはまだ観光地化されていない他の湖までにもその影響が及んでいたことがわかっているのです。
つまり「市販される日焼け止めに配合されているのだから安心」とは決して言えない状況なのです。
危険な日焼け止めを規制する世界の取り組み
しかし、このような最悪の状況を打開するため世界はすでに少しずつ動き始めています。そこでここでは、日本ではあまり知られない世界の取り組みを数例ご紹介します。
【ハワイ】
ハワイ州全域でオキシベンゾンを含む日焼け止めの販売を禁止するための法案が成立。2018年に州議会がすでに法案を可決しようという動きを続け、2021年の施行を目指しています。
※本法案はオキシベンゾンだけではなく同じくサンゴ礁に有害とされる「オクチノキサート」(日本語成分名:「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」)も使用禁止の対象としています。
【ボネール島(カリブ海)】
2018年、オキシベンゾンのサンゴ礁への脅威について認識を高めるためのセミナーを開催。ボネール島におけるすべての日焼け止め製品小売業者へオキシベンゾンフリーの製品のみを販売するよう奨励。
【メキシコ】
メキシコの海洋公園「シカレ海洋公園(Xcaret)」「シェルハ海洋公園(Xel-Há)」、両生態保護区では、オクトクリレン・ベンゾフェノン(オキシベンゾン)・t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンといった、有害化学物質とされる紫外線防御成分を含む日焼け止めは使用できません。
訪問者は上記の成分を含む日焼け止めを持参した場合、海洋公園の入り口で一時的に日焼け止めを預け、退園時に返却されるというシステムです。
今回は、日焼け止め成分の「人体への影響」と「環境への影響」についてお話ししました。
当記事に訪問されたオーガニックコスメに興味を持つみなさんは、オーガニックコスメがあなたや大切な人たちの健康を守るだけではなく、「コスメの選択ひとつが環境を守る手段になり得る」というその重要性を知っていただけたと思います。今後コスメを選ぶときの基準としてぜひ参考ください。
参考資料:
ELIZABETH WOOD (2018). IMPACTS OF SUNSCREENS ON CORAL REEFS.
U.S. Food & Drug Administration (2019). FDA advances new proposed regulation to make sure that sunscreens are safe and effective.