日本のオーガニック事情はドイツと比較すると、10年は遅れていると言われています。なぜ、ドイツではここまでオーガニックが浸透し、世界のオーガニックをリードし続けてこれたのでしょうか。
今回は、日本ではまだ知られざるオーガニック大国ドイツの姿と現状に迫りたいと思います。
Contents
ドイツがオーガニック先進国とよばれるのはなぜ?
「ドイツと日本のオーガニック事情」を比較!
オーガニック発祥の地と言われるドイツは、オーガニックのあらゆる側面で世界トップレベルを誇ってきました。ドイツなどのオーガニック先進国と言われている諸外国の現状を知らない方には、想像がつかないことも多いと思います。そこで、日本の現状と比較しながら、ドイツのオーガニック事情をご紹介します。
比較1.有機農業の面積の割合でみた世界ランキング
- ドイツ:10位(約109万ヘクタール)
- 日本:91位(約1万ヘクタール)
(FiBL 2017の調べによる)
比較2.小売売上額で見たオーガニック市場の世界ランキング
- ドイツ: 2位
- 日本:14位
(FiBL 2017の調べによる)
比較3.大手オーガニックスーパーの有無
ドイツオーガニックスーパー「denn's」
- ドイツ:全国チェーン展開する大手のオーガニックスーパーだけでも700軒以上の店舗があり、最大手の「denn’s」だけで全国に200軒以上チェーン店舗を展開。1店舗で約60,000種類のオーガニック商品を提供している。
- 日本:ドイツのようなオーガニック商品だけを集めたオーガニックスーパーはほとんどない。
比較4.世界が認めるオーガニック認証機関の有無
- ドイツ:世界最高峰のオーガニック認証機関といわれるデメター認証や世界のオーガニックコットンを認証するGOTZなど、世界中で支持を得ている民間オーガニック認証団体の多くはドイツ出身かドイツに本部がある。
- 日本:世界的に有名もしくは世界的に支持を得ている民間の認証団体はない。
このように、ドイツと日本のオーガニック事情をいくつか比較しただけでも、いかにオーガニックがドイツ国内で定着しているかうかがえます。
では、なぜドイツでは、オーガニックが身近に存在しているのでしょうか。そこには日本には真似できない、ドイツが世界のオーガニックを牽引できる理由があるのです。
ドイツがここまでできる理由!とにかく手厚い「財政支援」の存在
ドイツや欧州には生産者、製造者、研究者などへの手厚い公的財政支援が存在しています。残念ながら、日本にはこのような魅力的な公的財政支援はまだありません。
国の支援があることで、生産者も通常の慣行農業ではなく、安心してオーガニック農業に従事することができます。また、この公的財政支援は生産者だけでなく、研究者にも支給されるため「妥協しないオーガニックの追及」が可能になるのです。そのためドイツでは、まだ日本ではあまり行われていないようなオーガニック分野の調査、研究、技術開発が様々な機関で、多方面から数十年に渡って学術的に行われてきました。
そのことが、「ヴェレダ」「プリマヴェーラ」「アンネマリー・ボーリンド」「Dr. ハウシュカ」「sonett」や「SODASAN」など、世界中で多くの人に愛されるオーガニックメーカー誕生のきっかけになったのです。
そもそも、ドイツがこれほどのオーガニック大国となった理由は?!
理由1.オーガニックはビジネスとしてではなく『社会運動』として始まった
ヨーロッパのオーガニックは、「オーガニックムーブメント」と言われる社会運動として始まりました。
今から約100年前に欧州中の生産者を中心とする市民が、化学肥料や合成農薬に依存する近代農業に意を唱え、当時ドイツ領だった場所で集会を開催したのがオーガニックムーブメントの前身になったと考えられています。
ヨーロッパの事情が他地域と大きく異なるのは、欧州オーガニックの原点がビジネスやファッションにあるのではないこと。
現行の体制への異議を唱えて、欧州市民が手を取り合って立ち上がり、草の根からの世論と運動を作り出した結果だということです。(参考記事:オーガニックって結局なに?「人に優しい」「環境保護」だけでない!オーガニックの立体的な姿とは)
理由2.欧州一のオーガニック大国ドイツは市民のパワーにより支えられてきた
2013年、ドイツでオーガニック製品の消費に関する世論調査が行われました。この世論調査で、オーガニック製品の購入頻度を聞かれると、「ときどき」「ほぼ毎回」または「必ず毎回」オーガニック製品を購入すると答えた人が実に全体の約75%もいました。
日本で同じような調査をしたところ、「ときどきまたは、週に1回以上オーガニックを買う」と答えた人は全体の16%にしかならず、逆に「月1回も買うことはない、または全く買わない」と答えた人が回答者の半分以上を占める58%にもなりました(注1)。
ここで、「オーガニック食品に対する不満」を両国の消費者に聞くと、ドイツと日本ともに「オーガニック食品は高価である」という不満が返ってきたのです。オーガニックは、高価であると不満に感じているにもかかわらず、「オーガニックを積極的に買うドイツ国民」「オーガニックのものはほとんど買わない日本国民」この違いはドイツ人と日本人の着目している視点が異なるところからきています。
理由3.オーガニックを買う理由は「自分を超えた先にある」という考え
上記で行われた世論調査で、オーガニック製品を買う理由が聞かれると、両国間で大きな違いが出ていることがわかりました。日本で、オーガニックを買う理由としてあがってきたもので最も多かった回答のトップ3は、
- 自分と家族の健康のため
- おいしいから
- 安全安心だから
と、オーガニックを自分のために買う=「パーソナルベネフィット(個人の利益)」としてのオーガニックに着目して購入している人がほとんどだということ。
それに対しドイツでの世論調査の結果は、日本のものと大きく異なる結果になっています。
- 地元農家支援のため(90%)
- 動物愛護のため(85%)
- 環境や人体に害が少ないから(83%)
- 食のスキャンダルが少ないから(59%)
その他、世論調査ではないのですが、私が卒業したドイツの大学院の学生がドイツのオーガニック消費者調査を行った結果、オーガニックを買う理由として次のような回答がトップ5に上がりました。
- 健康のため
- 持続可能な世界を実現するため
- フェアだから
- オーガニックムーブメントを応援したい
- 環境保護のため
これらの調査の比較からみえてきたのは、ドイツ国民は「パーソナルベネフィット」としてのオーガニックを超えた「ソーシャルベネフィット(社会的利益)」としてのオーガニックを認め、またオーガニックプレミアム(注2)を喜んで支払ってきたという事実です。
(注2)オーガニックプレミアムとは、オーガニックであることに対して支払われる費用のこと
理由4.社会や環境は、誰かがよくしてくれるのではない
積極的に社会と関わることで大事な家族や自分を守るという気質
こちらに住んで
- 大学でドイツ人と一緒に勉強し
- 企業でドイツ人と一緒に仕事し
- 起業してドイツの法人や機関とやりとりし
- ドイツ人と同居して生活をともにし
日本では考えられないようなドイツ人の気質や美意識について触れるようになりました。
ドイツにあることわざで日常的によく聞くのが「Vertrauen ist gut, aber Kontrolle ist besser.(信頼するのはいいこと、管理することはなおさらいいこと)」というのがあります。これが、ドイツ人の気質をものすごくよく表しています。
政府や企業に対して信頼を抱きつつも、ドイツ人の市民は企業や行政の方針や活動に対し、常に厳しい視点を向けています。「大事な家族や自分の人生を守れるのは他の誰でもない自分自身である」と自覚した上で、現状をよくしていこうと自らも主体的に動く人が多い。
また、一般企業に勤め、家族がいても「環境保護、移民や難民支援、障害者支援」などへのボランティア活動や寄付を行う同級生、友人や元同僚が日本のそれとは比較にならないほど多いです。日本のように「便利で実用的であることが最優先され、何でもかんでも使い捨ての文化は持続性がない」という風に考えています。
たとえば「日本で買ってくるお菓子はすべて一つひとつ包装されていて、便利で消費者には嬉しい一方で、ゴミがたくさん出るよね。
環境のことは考えてないの?その生産に注がれるエネルギーをもったいないと思わないの?」そう考え、指摘してくるドイツ人に何度も会いました。
ほかにも数え上げるときりがないのですが、私がドイツで暮らす中、実際に自分で見てきたこと、体験してきたことのほんの一部をご紹介します。
理由5.世界一のオーガニック社会を作っているドイツ人の美意識
25年も前からスーパーでビニール袋を配布していなかった
私が初めてドイツに来たのは1992年。その頃からドイツではスーパーでビニール袋が無料配布されておらず、みんなマイバッグを持って買い物をしてました。当時日本ではまだまだ当たり前のようにプラスチックバッグが無料で配られていた時代です。
高級車を買うが、壊れるまで大切に乗る
車はベンツやBMWなどの高級車を買うが、中古の車を買うか、新車ならメンテナンスを行いながら、壊れるまで10年は大事に乗り続ける。
古い家具も世代を超えて、大切に使い続ける
ベビーベッドは30年以上も前に自分が使っていたものを子どもに使用し、古い家具に愛着を覚えて、大事に世代を超えて使い続ける。
そして、それを誇りに思っている。
祖父母が身に着けていたアクセサリーを譲り受け、大切に使う
亡くなった祖母が身につけていた金のアクセサリーを職人にモダンなスタイルに加工してもらい、孫が身につける(私も亡き義理の祖母のネックレスを愛用しています)。
全国至る所に、いらなくなった洋服を寄付するコンテナボックスがある
このコンテナボックスは、郵便ポストの数より多い。
子ども服・おもちゃ・絵本専用の激安フリマが教会主催であちこちで定期開催されている
「高くてよいものを大事に長く使う」
「限りある資源を尊ぶ」
「環境はみんなのものだからみんなで大事にして、みんなでその恩恵を享受するべきだ」
そういう美意識を多くのドイツ人が持っています。
どこに行っても、緑が多くて美しい国ドイツ。
緑をこよなく愛する国民ドイツ人。
社会や環境は誰かがいつかよくしてくれるのではなく、一人一人が積極的に関わることで今すぐ変えていけるのだと確信し、能動的に社会と関わっている。こういった人々の意識や美意識や行動力から、ソーシャルベネフィットとしてのオーガニックが、当たり前のように広まっていったのです。
日本人こそ、本来のオーガニックに共感するメンタリティーを持ち合わせている!
このようにドイツと比較してみて、「環境や条件が異なる日本には応用することが可能なのか?」「ドイツ人だからできるのではないか?」と疑問を感じる人もいるでしょう。しかし、今回両国を比較することで、日本人の素晴らしさと今後の大きな期待を再確認する機会に恵まれました。
私は、海外4カ国に13年以上住み、以来日本を日本の外から見てきて、日本の素晴らしさに圧倒され続けてきました。だからこそ、祖国日本が大好きで日本人として日本のことを誇りに思っています。
外から見ていて日本人がすごいなぁと思うのは、強い協調性や仲間意識が高く、自分のことはおいてでもコミュニティや会社のために人生を捧げることができるというメンタリティーです。
今回のこの記事を執筆するにあたり、日本に住んだことがあり日本の文化をよく知るドイツ人にも意見を求めてみると、思わぬ反応が返ってきたんです。それは、「他人に対して誠実な日本人だからこそ自分のためだけではない本来のオーガニックの姿に共感する人はたくさんいるはず。」という言葉。
彼の言うように、私たち日本人には「自分さえよければそれでいいとは思わない」という意識が一人一人の中に存在しています。このメンタリティーこそ、今後日本が、「本来のオーガニックの姿に共感し、日常にオーガニックが浸透した循環型の生活へ繋がっていく」ということなのではないでしょうか。
エコでフェアな社会の循環が叶うのがオーガニック。
オーガニックが世界に見せてくれる期待と希望を一人一人が知り、一人の想いから周りの人の意識も変わっていく。それが、どれだけちっぽけな個人の想いであっても、社会を動かすようになるのではないでしょうか。
いきなりドイツのようなオーガニック生活は無理かもしれない。けれど、そこに1㎝でも近づくような努力を消費者一人一人がすることができれば、さらに多くの「作り手、売り手、買い手」の意識が変わっていき、やがてそれが、政治家を動かし、国の方針を変えていける。このように、日本のオーガニック事情を大きく変えていくことができるのではないでしょうか。
今、オーガニックを選ぶ理由。そして、本場ドイツから発信し続けている理由
現在ドイツに住み、「食品、コスメ、日用品、洋服、宿泊ホテル」など、オーガニックのものを可能な限り選ぶようにしています。ものによっては5倍以上も価格が違い、いまだに買い渋りたくなることが幾度となくあります。
それでも、オーガニック製品をひと品でも多く買いたいと想いつづけてきたのは、オーガニックが持つ社会的インパクトに魅了されてきたからであります。また、途上国で生産者の支援をしていた経験からです。
そこでは、搾取される生産者の現状を目の当たりにしました。毎日私たちが使っているオイル、調味料、食材などが誰かの苦しみのもとに作られているのです。
これは、決して遠い世界で起きてることではありません。食料自給率が低い日本のような国ではたくさんの食品や製品が世界中から輸入されています。その結果、私たちは消費者としてこの不条理な仕組みを底から支えてしまっています。
オーガニックが広まることで、救える人生や命が世の中には無数にあります。そう考えると、オーガニックは決して高くないと思えてきたのです。
毎日の食事やライフスタイルが世界と繋がっています。だからこそ、オーガニックなライフスタイルを選ぶ人たちが増えています。オーガニックの理念が、貧困削減、児童労働禁止、動物福祉、食料主権、フェアトレード、環境保護を内包し、こういった社会的側面に大きく貢献しています。(参考記事:フェアファッションが世界を救う 〜 あなたは「誰かの苦しみ」の上に作られた服をまとっている!?)
オーガニックは「よどみない幸せの流れを作る仕組み」なのです。
私が、みなさんにぜひ知ってほしい本場ヨーロッパのオーガニックの醍醐味がここにあります。
一個人の利益を超えて、社会的な利益=ソーシャルベネフィットとしてのオーガニックが広まれば、もっと濃いオーガニックファンの層を作れるのではないか。ヨーロッパのように日本でもオーガニックが一気に広がる原動力になるのではないだろうか。私自身こういった思いを持ち、さらにオーガニックを日本で広めるべく活動を行っています。
自分を超えたその先にある、ソーシャルベネフィットを持つオーガニックの真の姿が広まれば、日本でも「オーガニックで当たり前」といった社会になっていく可能性が十分にあると信じています。
(注1)グリーンピース・ジャパンの調べによる. http://m.greenpeace.org/japan/Global/japan/pdf/20160323_Organic.pdf